西塚助手
先週初勝利を挙げたサクラヴァルールと、ラストチャンスへの思い
先週は夏の新潟、小倉、札幌開催の最終週で、今年の3歳未勝利戦も終了となりました。
その9月5日(土)新潟6レースで、我が尾関厩舎のサクラヴァルールが勝ってくれました。いやあ、嬉しかったですね。
もちろん、勝った時はどの馬でも嬉しいんです。でも、ブッチャけさせていただくと、未勝利戦が終わる直前の2~3週で初勝利を挙げると、嬉しさもひとしおなんですよね。別のスポーツで例えると 負けたら終わりのトーナメント戦、たとえば高校野球の甲子園みたいな感覚ですね。
人間にとっては毎年同じことの繰り返しじゃないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも、馬にとっては一生に一度のことですし、それに携わる僕たちも、この時期は毎年同じような気持ちになるんですよ。
毎日馬に携わっていると、少しでも良くなるように、できることはすべて、という気持ちで仕事をしています。そして、未勝利戦が終わりに近づくと、どの馬もそんな気持ちで送り出されるわけです。
この最後の1戦で明暗を分けるのは、馬の頑張りしかないんですよね。実際、先週は我が尾関厩舎の未勝利馬が他にも出走していて、その中にはサクラヴァルールよりも近走成績が良い馬もいました。もちろん、僕たちはすべての馬に対して同じように、それぞれのベストを求めて仕事をして送り出しましたし、馬たちも頑張って走ってくれました。
それでも勝ち負けが分かれてしまうのは、メンバーや枠順などといった運の部分もあるのでしょうが、もうひとつ重要なのが、最後の馬の頑張りだったりするのかなぁ、と思うんです。
サクラヴァルールに乗っていただいた(横山)ノリさんも、戒告覚悟(※鞭の使用について戒告を受けた)でステッキを連打されました。そういう部分も確かにはあるとは思いますが、いくらステッキを入れたからといって、それだけで勝てるほど競馬は単純ではありません。
人間が馬を思うように成長させることができたならば、みんながG1馬になれるでしょうし、馬の調子を常に絶好調にできるのであれば、こんな楽なことはないわけですよ。
こう言うと無責任に聞こえるかもしれませんが、決してそうではありません。人間がどんなに頑張っても、馬の能力以上のパフォーマンスを引き出すことはできないわけで、大事なのは馬の能力と、馬の気持ちをいかに引き出すか、ということだと思うんです。
ちなみに、サクラヴァルールの母は以前尾関厩舎にいて、このコーナーでも何回か取り上げたサクラプレジールです。母コスモバルバラのマイネルブラシウスもそうですが、最近はお母さんにも携わった馬と接する機会が多くて、やっぱり母の面影があるんですよね。
最後の未勝利戦で、何とかお母さんに勝ち星の報告が届けられるようにと、最後は祈るような気持ちでしたが、ノリさんの激励に応えて、本当によく頑張ってくれました。
確かに、ここで勝てなかったからといって、その馬が終わりということではありません。地方に行って活躍する馬もいれば、地方で2勝して戻ってきて、また活躍する馬もいます。
でも、僕たちはやはりひとつ勝って、残ってもらいたいという思いで馬に携わっています。ですから、やはり本音としては、勝てるのならば勝ってもらいたいという気持ちです。
人間でも命に関わる暑さの中を、最後の最後に力を振り絞って走ってくれた馬には、本当に頭が下がるばかり。先週の競馬からの帰り道に改めて感じたのは、僕たちはそのような馬の頑張りによって支えられている、ということです。
馬が頑張ってくれるからこそ、自分たちは馬の仕事ができて、生きていくことができるんですよね。勝った馬、勝てなかった馬、それぞれいますが、そのことを再認識させてくれたことには、感謝しかありません。
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