西塚助手
ゲートの巧拙は、父の影響を受けるケースがあるんです
先週行われた秋華賞でデアリングタクトが優勝し、牝馬三冠馬に輝きました。これで5戦5勝、無敗での牝馬三冠は史上初だそうです。
言われてみると、古くはメジロラモーヌが三冠を制するまでに2回負けていましたし、スティルインラブは2回、アパパネは3回、ジェンティルドンナは2回、アーモンドアイは1回負けているんですよね。
無敗で三冠を制するという、過去の名牝たちができなかったことを成し遂げた。もちろんそれは評価するべきですし、秋華賞も外を回して勝ったわけで、そのレースぶりも文句の付けようがない強さ。結果的に、同世代の中では力が違っていたのでしょう。
また、日高の小さな牧場の生産馬が、これだけの活躍をしていることについても、個人的に胸にこみ上げてくるものがあります。
ただ、ここまでのデアリングタクトを見て、過去の名牝より上だ、という声があるようですが、僕はそういった評価を下すのは、まだ早いんじゃないかと思います。改めて、先輩三冠牝馬たちの走りを思い浮かべましたが、どの馬も負けないくらい強かったですから。
デアリングタクトの現役生活はまだ続くわけで、これから日本の、そして世界の強豪を倒すような活躍をしてくれる可能性もあります。同世代にコントレイルもいますし、そういう意味では、本当の戦いはこれから。さらに強くなる相手に、今回と同じようなパフォーマンスを演じることができるのか、僕も注目したいと思っています。
さて、話は変わりますが、先週紹介したミンナノアイドルの娘、レディアイコ(下写真)にまた会ってきました。今週月曜(19日)のことですが、その時に感じたことについて、話をさせていただきたいと思います。
レディアイコが北海道から美浦近郊のスピリットファームに移動したのが、9月5日のことです。このスピリットファームは西塚厩舎時代からお付き合いがあって、母ミンナノアイドルもお世話になっていた牧場です。
それから何度か見に行っているのですが、19日に見た時は特に“母親に似ているなあ"という印象を受けました。
これまで、JRAに登録されたミンナノアイドルの仔は2頭いたのですが、どちらも父ゴールドアリュールの牡馬やセン馬。それに対して、こちらはモーリス産駒の牝馬です。父や、牡牝の違いもあるのかもしれませんが、顔や身体の大きさなどに母の面影を感じますし、肩の角度や体のつくりも似ているなあ、と思うんですよ。
さらに、身のこなしや脚捌きなど、どちらかと言えば短い距離の方がいいんじゃないかとも思います。そういうところも、母を思い浮かべる理由のひとつでもあります。母は未勝利でしたが、以前話をしたように、勝つだけの力はあったと、今でも思っています。
一方で、父の影響を感じさせる面もあります。北海道から来た当初は、牝馬らしく神経質な面があったようですが、今は慣れて全く問題ないそうです。ただひとつ、ゲートに対してはまだ敏感なところを見せているようで、こちらは父であるモーリスの影響かもしれないなあ、と。
個人的な印象かもしれませんが、ゲート難だった種牡馬の産駒が、父と同じようにゲートに課題を抱える、というケースがしばしばあるんです。パッと思い付くのは、ルーラーシップ。引退レースの2012年有馬記念で大きく出遅れたことを覚えている方もいらっしゃると思いますが、その産駒もそういう馬がけっこう多いと思うんですよ。
モーリスも、古馬になって連勝していた頃はそういう印象がないかもしれませんが、2~3歳時はゲートで難しいところを見せていました。実際、レディアイコも普段は本当に大人しくて従順なのですが、ゲートのような狭いところに入った時に過敏に反応するそうです。
その点については、トレセンに入ってきてからも細心の注意を払って対応していかなければならないでしょう。とはいえ、ゲート以前の問題で、人を乗せるところから苦労する馬もいることを考えれば、まだ対応しやすいですよ。
サクラプレジールとサクラヴァルール、コスモバルバラとマイネルブラシウスのように、親をよく知る馬の仔に接するというのはやはり嬉しいものですし、思い入れも強くなります。そういったところも、この仕事の醍醐味ですよね。
レディアイコの入厩時期は未定ですが、この馬については、これからも折に触れて話をしていきたいと思っています。
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