西塚助手
【菊花賞回顧】内枠、厳しい展開を克服したコントレイルの強さ
先週の菊花賞はコントレイルが圧倒的人気に応えて勝利し、無敗の三冠制覇を達成しました。
2着アリストテレスとはクビ差で、それ以外のG1勝ち、特にダービーの3馬身差より小さいものでした。皆さんもその着差や、レースぶりについてさまざまな受け取り方をしたようで、SNSなどを見ると“辛勝だった"という声も多いようです。
ですが、僕自身の見方としては、厳しい条件、展開を凌いで勝利を収め、改めてその強さを証明したレースだったと思っています。
レース内容についてブッチャけさせていただきますと、アリストテレスに乗っていたルメール騎手さえいなかったら、もっと楽に勝てたんじゃないでしょうか。
どういうことか。分かりやすくするために、僕の経験からひとつ例を挙げてみましょう。
引っ掛かりやすい馬に自分が乗って、坂路やコースで調教しているとします。その場合、できることなら1頭でじっくりと乗りたい。もし後ろから馬が来たとしても、少し間隔を空けて、向こうの馬がスピードに乗ってサッと抜いてくれるなら、そこまで気にならないものなんです。
しかし、半馬身くらい後ろにピタリと付けられて、ジワッと並走される形になると、見た目以上に嫌なんです。僕はレースで乗ったことはありませんが、4コーナーで前が開かないよりも嫌かもしれません。
さらに、今回はレースですから、当然相手のことも意識しなければならない。そうなると調教とは違い、自分の馬のリズムだけ考えていればいい、とはならないんですよ。まさに、今回のコントレイルに対し、ルメール騎手が採った戦法ですね。
逆に、前進気勢が見られず、どちらかと言えば反応が鈍いタイプの場合は、そうしてもらう方が助かるんですよ。後続の馬に促してもらうイメージです。
自分の見た感じだと、コントレイルはそこまで掛かりやすいタイプには見えませんが、それでもライバルにあのレースをされると、リズムを崩し、馬自身もハミを取って、行く気になってしまう危険性が高くなる。ただでさえ、今回は未知の3000mで、二度の坂越えもある。これまで以上に、リズム良く運ぶことが求められる状況ですからね。
コントレイルに乗っていた福永騎手自身、レース後に“リラックスして走らせることができなかった"と仰っていたようです。つまり、スタートからゴールまで、コントレイルのリズムで走れていなかったということなんでしょう。
ならば、その状況になる前に対処すればいい、と思われるかもしれませんが、これもなかなか難しい。コントレイルがどこに付けても、それをマークするつもりだったかもしれませんし、道中で動くのもリスクが高いですから。
もうひとつ、今回のコントレイルは2枠3番という内目の枠に入りました。レース前は“絶好枠を引いた"という声をいろいろなところで耳にしましたが、実際はそうではなかったと思います。
レースを見れば分かりますが、道中で各馬が内を避けて走っていました。コントレイルは外目に出せましたが、下手をすると外から寄せられて内を通らされる形になっていたかもしれませんし、比較的状態が良い内ラチ沿いまで行ったとしても、前が空いているわけですから、行きたがってしまう可能性があります。今回に関しては内枠がプラスだったとは思えなくて、むしろ“内枠の怖さ"さえ感じました。
それほど厳しい条件、レースになったにもかかわらず、勝利を収め、無敗の三冠を達成した。それだけ強かったということの証明でもあると同時に、競馬の難しさ、怖さを再確認したレースでした。
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