西塚助手
安全意識の向上は、騎乗技術以上に重要なもの
菊花賞が行われた10月25日(日)、東京4Rの2歳新馬戦(芝1600m)で気になることがありました。今回はこの件について、お話をしたいと思います。
このレースで起こった事象について、JRAの成績表には「シエルグリーン号の騎手石川裕紀人は、最後の直線コースでの御法(内柵に接触した)について過怠金30000円」とあります。
JRAのサイトにパトロールビデオがありますので、可能な方はご覧下さい。シエルグリーンに乗っていた石川騎手が前を走っている馬を内ラチ沿いから抜こうとして、前の馬が寄ってきたことで内ラチに接触、シエルグリーンが躓いています。
一見、石川騎手が邪魔されたように見えるのに、過怠金を課せられることになったわけです。JRAによる裁決レポートは、以下の通りです。
最後の直線コースで、1番シエルグリーンが先行馬を追い抜こうとした際に内柵に接触し、つまずく事象がありました。この件について、前を走行する複数の馬のわずかな動きにより間隔が狭くなったことも一因として認め、同馬の騎手石川裕紀人に対して過怠金30000円を課しました。 |
今回のような、いわゆる“イン突き"をすると、“ファインプレーだった"と評価をされることがありますが、決してそうではないんですよね。
日本では内ラチ沿い1頭分を空けてレースをすることがマナー、暗黙の了解とされています。これは安全確保が目的で、自分が落馬した時にラチにぶつかることを避けたり、前を行く馬が寄ってきたり、故障した時に避けることができるように、ということです。
これは北海道や福島などの小回りコースだけでなく、東京などの広いコースでもしっかりと守られています。“日本競馬の甘さだ"という声もあるようですが、決してそうではないと思います。
そもそも、海外と日本では競馬場の形態が違いますし、ラチの内側にスペースがあったり、あるいはラチそのものに1頭分の幅がある競馬場もあるそうです。いずれにしても、この安全域を無視してレースをするのは、決してファインプレーではないんです。
ご記憶の方もいらっしゃると思いますが、2010年1月11日の中山4R(ダート1800m)で、9頭が落馬する事故が起こりました。これは加害馬のノボプロジェクトが我が尾関厩舎の管理馬だったので、僕も鮮明に覚えています。
このケースも、外からプレッシャーをかけられたという要因はあったものの、内1頭分の安全域を確保しておいたら、危険を回避できたのではないか、と言われたケースでした。
9頭落馬の時は3歳新馬戦で、今回は2歳新馬戦でした。つまり、初めて競馬をする馬が揃ったレースです。自分の馬や他の馬がどんな動きをするか予想しづらい状況ですから、特にしっかりと安全域を守って競馬をしなければならないんです。
ベテラン騎手の多くはインを突いて勝った時でも、きちんと安全域を確保していたにも関わらず、決して満足していないように見えることがあります。若手騎手が内の安全域を通って勝ったとしても、それは上手いのではなく、そこを通らざるを得ない状況になったということ。その前に、その状況を避けるように動かなければいけないんです。
もちろん、我々厩舎関係者も、勝ったからOKとするのではなく、そういった危険なプレーを見極める目を持たなければダメです。
今回のケースはその一例で、最近は少し安全意識が希薄になってきているように感じます。騎乗技術の向上はもちろんですが、安全意識の向上はそれ以上に重要だと思うんですよね。
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