西塚助手
【エリザベス女王杯回顧】柔軟に考えることの重要さを教えてもらいました
先週はエリザベス女王杯をはじめ、注目を集めた重賞がいくつか行われました。今回はそれらのレースについて、僕なりに注目していた点、気になった点をお話ししたいと思います。
まずはエリザベス女王杯。昨年の勝ち馬で、1番人気に推されたラッキーライラックの連覇で幕を閉じました。8枠18番でどうか、と言われていたようですが、馬群の外を通って押し切り、完勝と言っていい内容。強かったですよね。
そのラッキーライラックは、我が尾関厩舎のグローリーヴェイズとこれまで2回対戦(19年香港ヴァーズ、20年宝塚記念)しています。それぞれのレースでお互い上位人気になっていたこともあり、意識して見ることが多かったんですよね。
特に注目していたのが、僕の立場から想像いただけるかもしれませんが、その追い切りなんです。
通常の牝馬のパターンなら、1週前にしっかりやって、当該週はサラっと、という感じで、緩急を付けることで調整するケースが多いんです。それに対して、ラッキーライラックは大型馬(エリザベス女王杯の馬体重が522kg)ではあるのですが、当該週でもハードに追い切ってくるなあ、という印象が強いんですよ。
牝馬というと、飼い食いや体重維持に気を遣ったり、あるいはイレ込みといった部分により強く意識がいくものなんです。でも、今回のラッキーライラックを見て、強い馬の場合は心配機能や肉体のパワーアップなどに意識を向けて、調教を行ってもいいのかもなあ、と思ったんですよ。
つまり、馬体重やテンションを意識しすぎるのではなく、馬の状態や能力を考慮して、しっかりとハードな調教をやってもいいんじゃないか、ということなんです。
一方、エリザベス女王杯には我が尾関厩舎のロサグラウカも出走しました。結果は残念ながら15着でしたが、思った通りの調整で、レースに送り出すことはできていたんです。
ロサグラウカは5歳ですが、今回で14戦目でした。これまでは食いがあまり太くない馬で、間隔を詰めて使われることがありませんでした。でも、今回は新潟牝馬Sから中2週での出走でしたが、最近は飼い葉食いも安定していたので、これならば間隔が詰まっても大丈夫なんじゃないか、という感覚があったんです。
その通り、心配された体重減もさほど大きくなく(8kg減の458kg)、テンションの面においても対応してくれたんですよ。新潟牝馬Sの時は若干太いかもしれないな、という印象がありましたから、今回はちょうど良かったと思います。
確かに今回は負けてしまいましたから、これが正解だったかどうかは分かりません。というより、馬へのアプローチや調整といったことは、これが正解、ということはないんですよね。だからこそ、熟考に熟考を重ね、試行錯誤することが本当に大切だと思うんです。
というのも、我々関係者を含め、出た結果に対して正解か不正解かを決めつけてしまう傾向があるように思うんです。
ロサグラウカはこれまで間隔を空けて結果を残してきた馬ですが、そういう結果だけを見ると、“間隔を空けて使わなければ"という意識が強くなりがちになるんです。
でも、間隔を詰めた時に負けたとしても、それをそのまま敗因としていいのかどうか。たまたまかもしれないし、条件が合わなかった、相手が強かっただけかもしれない。むしろ、間隔を意識しない方が良かったりするかもしれません。
また、今回はゲートを上手く出られませんでしたが、元々ゲートの中で動いたりするところがあって、さらに初めてブリンカーを装着していた。それらを含め、今後の対応を考えなければならないでしょう。
僕たちの世界に限らず、ものごとを決めてかかるのではなく、柔軟に考えることが必要なんですよね。そういったことを、今回のエリザベス女王杯でラッキーライラック、ロサグラウカに教えてもらいました。
もうひとつ注目していた京都ジャンプSでは、オジュウチョウサンが3着に敗れました。
石神さんも言及していましたが、飛越が安定せず、最終障害で脚をぶつけてスピードが削がれてしまったようです。障害レースは平地の脚も大事ですけど、飛越も同じくらいか、それ以上に大事だなあ、と改めて痛感しました。
いずれにしても、結果として絶対的な王者が敗れたわけです。次は大一番の中山大障害ですが、距離も延びるし、最後の直線の障害がなくなります。長期休み明けをひと叩きされた王者が再び輝きを放つのか、政権交代となるのか。
競馬ファンのひとりとして、いまからその戦いが楽しみです。
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