西塚助手
【エリザベス女王杯回顧】いろいろなタイプを出すキズナ産駒の共通点とは
大波乱の結果となった先週のエリザベス女王杯。この結果については、僕自身も正直驚かされました。みなさんの多くがそうだったと思いますが、優勝候補と目されていたレイパパレ、アカイトリノムスメ、あるいはウインマリリンが勝つだろうな、と思っていたからです。
しかし、勝ったのは10番人気のアカイイトでした。序盤は後方に付けて、3コーナーで早めに進出。有力馬が伸びあぐねる中、力強く末脚を伸ばしてきました。
昨年と同じ阪神芝2200mでしたが、今年は昨年に比べて上がりがかかる馬場でした(※レース上がりは今年が36秒5、昨年は34秒8)。つまり、瞬発力よりも底力が求められるような厳しい馬場や流れの中で、昔からある表現を使わせていただくと、ナタのような力強い末脚でねじ伏せた、という印象です。
馬場の違いはありますが、以前から話をしているように、溜めて弾けさせる、瞬発力至上主義といった時代が、徐々に変わりつつあることを改めて感じます。
また、勝ったアカイイト、2着ステラリアはともにキズナ産駒で、同産駒としてはG1初制覇ということになりました。
キズナ産駒について、当初は父のディープインパクトらしさが一番出ている種牡馬なんじゃないか、というイメージを持っていたんですが、僕自身も何頭か携わらせていただくうちに、それが徐々に変わっていったんですよ。今はお母さんの影響を出しやすいというか、母系によっていろいろなタイプの馬が出てくるように思っています。
つまり、ディープインパクトのように瞬発力があって、切れ味があるタイプもいれば、長く良い脚を使ってパワーで押し切るタイプもいる、という感じです。
ただ、ひとつ共通点があって、それは“前向きさ"です。少なくとも僕が接した馬はみんな走ることに前向きでしたし、全体的にもいわゆるズブい馬は少ないようです。芝はもちろん、ダートで活躍する産駒もいますし、短距離から中~長距離で活躍する馬まで、実に様々なタイプがいるのは、そういう理由もあるように思います。
短距離戦で活躍するタイプも、アカイイトのような中~長距離戦でパワーを活かすタイプも、それぞれがキズナ産駒らしさ、ということになるのかもしれませんね。
一方、敗れた上位人気馬の話もさせていただくと、まず6着のレイパパレは主戦の川田騎手がアメリカ遠征で騎乗できませんでしたが、初コンビを組んだルメール騎手が2番手の内で何とか我慢させていて、さすがの技術だと思いました。
レイパパレ以外の先行馬が下位に沈んだことを考えると、力は示したと思いますが、今回は距離を含めた条件や展開が向かなかった、という印象を受けました。
続いて7着のアカイトリノムスメは、攻め馬で一緒になることがあるのですが、普段からピリッとしたタイプに見えます。ですから、快勝した秋華賞から1ヶ月で2回目の阪神輸送、しかもG1の連戦で、精神的にもきついところがあったのかもしれません。
僕も経験がありますが、レース当日の朝まで大丈夫だったのに、レース直前で気性面の難しさを見せるケースは数え切れないくらいあります。前回大丈夫だったから今回も大丈夫、ということにはなりませんし、こちらが気を付けていると、拍子抜けするくらいに問題が起きなかったこともあります。
アカイトリノムスメも力がある馬ですから、次にあっさり巻き返しても、まったく不思議はないのではないでしょうか。
また、ウインマリリンは報道などでご存じの方も多いと思いますが、肘腫(ちゅうしゅ)という症状を患っていたようです。
この肘腫というのは、踏み込みの深い馬や股関節が柔らかい馬に多いとされています。僕が携わった中にも1頭いて、発症前は能力を感じる馬だったのですが、ある日突然発症して、それ以降はまったく別馬となってしまったんです。
ウインマリリンは発症後にオールカマーを勝っているように、治療すれば完治するケースも多く、屈腱炎などのような不治の病ではないと思います。ただ、僕が経験したように能力発揮に大きな影響を与えるケースもあるのも事実なので、またしっかり治療して、その能力を発揮してほしいと思っています。
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